1-(05)生まれ変わりと前世療法

「生まれ変わり」問題も、死後存続と同様、大きな情緒的反応を巻き起こす主題です。
アジアにおいては、この考えはごく普通に受け入れられてきました。インドは下等動物から準形而上的存在(天部)までを包摂する壮大な輪廻転生の神話を持っており、仏教も基本的にはそれを受け継いでいます(もっとも転生する主体は自己ではないというような奇妙な理屈も存在するようですが)。バリ島では、人は一族の数世代後に生まれ変わるとされ、子供が生まれると、シャーマンにそれが一族の祖先の誰の生まれ変わりかを判定してもらう、といったことが通常に行なわれています。日本人の生まれ変わりに対する態度は曖昧で、望ましいとは思わないにしても、それがあることは許容しているというところでしょうか。特に、宗教や政治上の偉人は、それ以前の偉人の生まれ変わりであるとする伝説は多くあるようです(たとえば、弘法大師空海が聖徳太子の生まれ変わりだとする伝説など)。
しかし、キリスト教圏、とりわけ欧米では、生まれ変わりという概念は、古代後期から中世にそれを主張した勢力が異端とされたこともあってか、タブーに近いものだったようです。確かに、人は死後眠るように終末を待ち、そこで最後の審判を受けるというキリスト教の教義にとって、生まれ変わりは絶対に認められない観念でしょう。
おそらくそういった背景があったためか、生まれ変わり問題は、初期のスピリチュアリズム、サイキカル・リサーチの中では、ほとんど扱われませんでした。当初は、スピリチュアリズムの中で得られた「霊からのメッセージ」でも、再生を認めるものと認めないものがあり、スピリチュアリストの中でも意見が分かれていたようです(ただし、アラン・カルデックのスピリティスムでは、すでに1856年の段階で再生を前面に打ち出していました)。その後、いくつかの、内容の優れたメッセージが、再生を積極的に説くようになって、スピリチュアリストの中にも再生説は拡がっていきました(ただし、再生の仕組みに関しては、きわめて理解することが難しいとされていて、スピリチュアリストの中でも、様々な意見があります。別項参照)。

スティーヴンソンの研究

生まれ変わりの研究としては(特にその実証面では)、ヴァージニア大学精神科教授で超心理学者のイアン・スティーヴンソンの業績を抜きに語ることはできません。スティーヴンソンは、1960年にASPRの会報に生まれ変わりに関する研究論文を発表して以来、超心理学財団(スピリチュアリズムの霊媒アイリーン・ギャレットが設立者の一人)やカールソン(ゼロックスコピーの発明者)の支援を受けて、長年にわたるフィールドワークを続け、1987年に生まれ変わりに関する最初の著書『前世を記憶する子供たち』を公刊し、きわめて大きな反響を呼びました。同書は超常現象やサイキカル・リサーチの優れた概説書にもなっており、日本でもロングセラーになっています。
彼は、きわめて慎重で批判的な理性と柔軟な理解力を兼ね備えた人で、面接と実地調査という、手のかかる方法を40年にわたって地道に積み重ね、2000例を超える「生まれ変わりを強く示唆する事例」を収集しています。ここではもちろんその事例の概要すら述べることはできないので、ポイントのみを整理しておきます。
まず、圧倒的に多いのは、幼児が、自分の過去生はこうだったと主張するものです。普通は言葉を話し出す3歳ごろに主張し始め、数年のうちにその記憶を失ってしまうという傾向があるようです。これは誰かの指示・指導によるものでなく、しかも幼児はまだたくさんの体験をしていないため(たとえば他の言語を習得するとか旅行するなど)、検討する価値が高いと考えられます。
さらにこの中には、以下のような特徴を示すものがあります。
(1) 事実と符合する証言がある――「過去の自分」やその親族の名、土地や家屋の状況、所持物の見分けなど
(2) 特異な行動あるいは行動障害がある――現在の自分の性別や社会的地位とそぐわない行動を示す(女性なのに戦争ごっこばかりするとか貴族のようにふるまうなど)、特定の物に対して異常な恐怖や愛着を示す、自国語を習得することに障害がある、など
(3) 身体的な「痕跡」がある――特に死に方に関連した先天性欠損や、痣(母斑)、などが見られる(たとえば、前世で戦闘機の銃撃で死んだ日本兵だったと主張するミャンマーの少女の鼠蹊部に、銃撃痕に似た奇形があるなど)

ひとつだけ、事例を簡単に紹介します。
ジリアン・ポロックとジェニファー・ポロックは、1958年にイングランドで生まれた一卵性双生児ですが、2人は2歳から4歳までの間に、1957年に事故で死亡した二人の姉ジョアンナ(当時11歳)とジャクリーン(6歳)の生涯を記憶していると見られる発言をし、所持品を見分けたりしました。さらに、ジェニファーがジリアンに依存するという関係は、ジャクリーンが姉のジョアンナに依存する仕方にきわめて似ていました。
また、「ふたりが字を習っている時、ジリアンは鉛筆を難なく持てたが、ジェニファーは手で握りしめてしまった。(ジリアンの前世人格とおぼしき)ジョアンナは、死亡するまでの数年間、鉛筆を正しく持って書くことができたが、(ジェニファーの前世人格で、死亡した時点でわずか6歳だった)ジャクリーンは、筆記用具を握って持つ段階に留まっていたのである。」
さらに、ジェニファーは、左のわき腹に平坦なあざを、額に母斑を持っていました(同じ遺伝子を持つジリアンにはそれらはありませんでした)。ジェニファーの前世人格とおぼしきジャクリーンは、左のわき腹にあざがあり、額には3歳の時転倒してバケツにぶつけた傷跡があったのでした。
特に、この「先天性欠損」や「痣(母班)」は、生まれ変わりの実証問題で、非常に大きな意味を持つものです(別項「超ESP仮説」参照)。

当人の主張のほかに、他者の証言が複合されて補強される例もあります。たとえば、ある子供は、前世の自分が死んだ時、その遺体を高みから見おろしていたところ、ちょうど通りかかった女性がいたのでついてきて、その女性を母親として生まれてきた、と証言しましたが、母親の方も、その遺体のあった場所にいたことを覚えていることを証言したという神秘的なケースがあります。このように、当人の主張のみでないものは、それだけ信憑性も高くなるわけです。

以上のような「子供の証言」に対して、成人後の過去生想起は、次のような仕方で起こることが多いとされています。
(1) 繰り返し見る夢(特に悪夢)
(2) 病気や薬物によって引き起こされる想起
(3) 瞑想によるもの
(4) 強烈な感情体験時に想起が起こるもの
(5) 催眠(退行催眠)によって現れてくるもの
ただし、これらによって得られた想起は、断片的で、事実の検証も難しいものがほとんどで(「その情報を通常の方法――本とか映画とか――で得たのではない」ということを証明することは非常に困難です)、中には信憑性にまったく欠けるものも多いとされています。特に、過去生を知る目的で催眠を用いた場合、何とか誘導に応えようと作り上げてしまう傾向があるため、催眠による想起はあまり証拠としての価値はないとスティーヴンソンは述べています(ちなみに、霊能者と称する人々が金銭を取って行なう「過去生リーディング」に対しては、彼はほとんど意味を認めていません)。

生まれ変わり研究への反論

スティーヴンソンの調査は、主張者の証言がどの程度事実と符合するかはもちろん、それを別の通常的な手段で知り得たかどうかの検証まで含む、きわめて周到で慎重なものである。実際にそれを読んでいただければ、生まれ変わりという現象がある可能性は、きわめて控えめに言っても、「検討に値する」と判断されると思います。
しかしながら、当然、これに反駁する主張もたくさん出されるでしょう。スティーヴンソン自身が取り上げている中から、いくつか典型をあげてみます。

(1) 物質的法則に反するので存在するわけがない。そのように報告されているものは、すべてペテン、錯覚である。
(2) 過去生の記憶は、自分はもっと高い階級にいるべきだとか、過去に偉大なことをしたのだと信じることによって、自我欲求を満足させるための空想にすぎない。
――これらは唯物論信奉者の通常の拒絶反応で、記録をきちんと読まずになされる断定的な批判です。それでは説明できない現象が多々あることを報告は立証しています。

(3) 現在の人口の爆発的増加に見合う「前世」人格があるのか
――これまで存在した人間の数は少なめに見積もって800億と推定されるので、単純計算でも問題はありません。また、「新製」の人間がいる、複数に分かれる、他の生物から転換する、といった可能性が棄却できないので、数の問題は議論の対象になりません。

(4) なぜほとんどの人間には過去生の記憶がないのか
――これは、「生まれ変わりはあるか」という研究とは次元を異にする疑問であって、実証研究の中では答えられないものです。生まれ変わりの仕組みはまったくわかりませんし、「全部の(ないしは多くの)人間が生まれ変わりである」という証明はできていません。かりにそうであると仮定した場合、記憶を消去する必要性や、何らかのシステムがあるのかもしれません。

(5) 生まれ変わりではなく、違った仕組みによるものである。
――ここで出されるのが「超ESP」仮説で、これは、「当人はESPによって、どこかに存在する死者の記録を読み取り、それを組み合わせて前世記憶を創作しているのだ」とする説です。この説は人間のESP能力を法外に拡張し、それによって「死後存続仮説」を否定しようとするものですが、わずか3、4歳の普通の子供が、場所も特定できない情報記録庫にアクセスし、まったく関係もない人物の人生記録を読み取り、完全にそれになりきって見せる、ということが可能かどうかはかなり疑問です。また、「技能」(言語能力や特殊技能)や「身体的特異」(欠損やアザ)などはESPでは獲得できないので、生まれ変わり事例のすべてを超ESP仮説で説明することはできません。(この問題は各論編「超ESP仮説は棄却された」参照)

(6) 生まれ変わりでなく、「憑霊」ではないか。
――これは非常に微妙な問題を含む問いですが、憑霊というのは、霊という「死後も存続する存在」を認めているわけで、ここで検討している「死後存続」の是非を超えた議論になりますので、別に取り扱うことにします。

こういったスティーヴンソンの地道な研究と説得の効果もあって、生まれ変わりを受け入れる人は増加しているようです。近年のアメリカの世論調査では、半数を超える人が「生まれ変わりを認める」と答えているものがあります。また、SICOPという懐疑論者集団の会員だった宇宙科学者カール・セーガンは、遺作となった著書で、「小さな子供たちが、生まれ変わり以外には知り得なかったはずの前世の詳細を物語る」という主張は「真剣に検討する価値がある」と述べていますし、行動療法の大家ハンス・アイゼンクも、スティーヴンソンの研究について「真にきわめて重要なことがわれわれの前に明らかにされつつあるという見解からむりやり目を逸らせることは、誠実であろうとする限りできない」と告白しています。

前世療法

スティーヴンソンは、証拠価値としてほとんど意味がないとし、かなり否定的な批判をしていますが、退行催眠による前世記憶の想起によって症状を治療する「前世療法」は、近年、非常に大衆的な人気を博しています。
前世療法は、退行催眠によって出生以前にさかのぼり、さらに「あなたの現在の症状に関係した過去の人生があるなら、そこに行ってみましょう」という誘導によって、過去生らしき記憶が出てくるというものです。そして、それによってクライアントの抱えていた心身症状が軽減するという効果があるとされています。
これは日本でもベストセラー・ロングセラーとなっている『前世療法』(1988年刊)の著者、ブライアン・ワイスの影響によるところ大だと言えるでしょう。
ワイスが、前世療法を「発見」したのは、偶然でした。1980年、ワイスはある患者に退行催眠を施し、「あなたの症状の原因となった時まで戻りなさい」と指示しました。するとクライアントは「私は長いドレスを着ています……アロンダ……18歳です……時代は紀元前1863年」と答えました。そしてアロンダの死の場面を語り、他に2つの「過去生」を断片的に語ったのです。当初ワイスは前世などというものを信じませんでしたが、様々な文献をあさり、また退行催眠を続けていく中で、生まれ変わりの真実性を確信するようになります。
臨死体験研究がムーディとオシス+ハラルドソンという、それぞれ独立した研究者の成果によって広く知られたのと同様に、前世療法も、グレン・ウィリストンやジョエル・L・ホイットンによって並行的に探究がなされていました。
ウィリストンは、心理療法士として催眠を用い、早くから前世療法を行なっていたようです。数千人に前世療法を行ない、1983年に、『Discovering Your Past Lives』(邦訳『生きる意味の探究』――ただし編抄訳)を刊行して、前世療法のパイオニアとなりました。ホイットンは、もともと宗教や神秘思想に興味を持っており、1970年ごろから退行催眠による前世療法を行なっていましたが、1974年、やはり偶然に「中間生(interlife, between-life)」という奇妙な状態を「発見」し、それを中心主題に、1986年に『輪廻転生――驚くべき現代の神話』を刊行しました。

前世療法における過去生の記憶、とりわけ死の直後の体験と「中間生」と呼ばれる体験は、臨死体験との相同性があり、注目されます。それは、多くの場合、死の直後に、意識は空中に浮遊し、自分の死体を見つめているということ、また光のようなものに引き寄せられたり包まれたりする体験をすること、しばしば、姿のはっきりしない「偉大な存在」に出会っていること、などです。また、体験者が、死後存続を確信し、死の恐怖がなくなり、人生に対して肯定的な考えを持つようになる、という点も同じです。
前世療法は、もっぱら症状の改善ということに主眼が置かれますので、そこで出てきた「過去生の記憶」が真実かどうかは、あまり実証的な探究はされていません。しかし、通常は知ることのできない過去の事実と符合するというケースも、多く報告されています。
例えば、ウィリストンの著書には、クライアントが、イングランドで20世紀初頭に流行した「底だけが木の靴」や、ダムで沈んでしまった小さな町の名前などを想起したというケースが、数多く挙げられています。

前世療法については、正統科学者・正統精神医からはもちろんのこと、それに準拠しようとする正統志向心理療法家(正統を自認する催眠療法家を含む)からも、実証性を至上とする超心理学者(スティーヴンソンも含む)からも、批判・非難を受けているようです。この集中砲火は、ある意味で、スピリチュアリズムに向けられてきたそれ(スピリチュアリズムについては、正統科学、正統宗教、正統志向心霊研究=後の超心理学からでした)に似ていなくもありません。大衆的な人気という点も類似性があります。似ているから同じだというわけではありませんが、前世療法とスピリチュアリズムには、ある種の共有概念があることは確かです。それは、霊魂(輪廻転生する魂)・霊界(前世療法では「中間生」)・霊的高位存在(指導霊やマスター)の実在性の認容、そして人生を「魂の成長のための場(「学校」)」と捉える姿勢、などです。これらについては、改めて別項で検討したいと思います(各論編「死後存続証明の新たな展開――臨死体験と前世療法」中間世セラピーと霊界探究参照)。

死後存続の研究において、スティーヴンソンの研究の高い実証性は、特筆すべきものです。また、大衆への広がりという意味では、前世療法の貢献も大きなものがあります。「生まれ変わり」問題は、現代の死後存続研究において、主流な主題となっているわけです。

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